今年最大級の不動産取引が成立。高額不動産投資の主役は誰?
2014.10.31|不動産投資ニュース
ソフトバンクの孫正義社長がティファニー銀座本店ビルを一般相場とはかけ離れた価格で購入するなど、東京都心の不動産は国内外の不動産投資ファンドや富裕層から注目される存在です。最近、東京駅の近くにある「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」が、今年最大級の価格で売買されたというニュースが報道されました。買主はシンガポールの政府系投資ファンド、購入価格は17億ドル(約1800億円)とのことです。
PCP丸の内取得、シンガポールGIC-今年最大級1800億円
10月21日(ブルームバーグ):政府系ファンドのシンガポール政府投資公社(GIC)は「パシフィックセンチュリープレイス(PCP)丸の内」のオフィス部分を取得する。関係者によると17億ドル(約1800億円)の取引で、不動産売買が活発化している一例になる。
PCP丸の内を保有する不動産投資会社セキュアード・キャピタル・インベストメント・マネジメントの親会社PAGとGICが21日発表した。GICは高い賃料収入を目指し、値上がりも見込む。東京駅前の複合ビルPCP丸の内は地上32階、地下4階建てで2001年の完成、オフィスのほかフォーシーズンズホテルなどが入居している。
取引額は不動産取引で今年最大級。日本銀行の異次元金融緩和を契機に昨年から回復し始めた商業用不動産売買は今年に入り一段と活発化している。
JLL、東京・丸の内のAグレード複合型ビル売却を支援
JLLキャピタルマーケット事業部長 水野明彦は、次のように述べています。
「回復傾向にある日本経済や東京のオフィス市場の動向に国内外の多くの投資家が注目しており、今回の『パシフィックセンチュリープレイス丸の内』の売買取引は、東京Aグレードオフィス市場に対する関心の高さ、また更なる経済回復や賃料上昇に対する期待の高さを象徴する取引となりました」
外国人投資家はなぜ日本の不動産に注目するのでしょう。上記JLL(ジョーンズ ラング ラサール)アジアパシフィック最高経営責任者(CEO)、アラステア・ヒューズ氏のインタビュー記事を引用させていただくこととします。
トーキョーは魅力ある不動産マーケットだ
不動産世界大手に聞く、海外投資家の”買い姿勢”中でも、不動産売買額でニューヨーク、ロンドンに次ぎ世界3位の東京が活況を呈している。海外投資家が東京を気に入っている理由はいくつかある。
まず、日本は成熟、安定した経済大国で、取得可能かつ高品質な商業用不動産がある。さらに、東京はほかの市場より回復が遅れていた。オフィス賃料はリーマンショック前と比べて60%程度の水準にとどまっており、回復が始まったばかりの段階にある。そして最も重要なのは、東京の商業用不動産のイールドギャップ(投資利回りと長期金利の差)は非常に大きく、それほどレバレッジをかけなくても投資妙味があるという点だ。
東京都心の賃料はまだ安く、購入後にテコ入れをすることで賃料収入を上げることができると見込んでいるようです。近い将来、転売して相当のキャピタルゲイン(転売益)を得ることができる可能性を鑑み、高額な不動産投資を実行しているのでしょう。
約半年前、今年4月に公開された次の記事が現在の東京の不動産市況を物語っています。
「最後の“大玉”が出た」──。米国の投資ファンド、ローンスターが売りに出した東京の目黒雅叙園について、不動産業界関係者は感慨深げにこう語った。
リーマンショック前のミニバブル時に高値つかみし、その後の市況低迷で塩漬けになっていた。1000億円以上ともいわれる巨額案件だ。
こうしたディールが動きだした背景には、不動産市況の大幅改善がある。2013年初から始まったアベノミクスによる景気回復とインフレへの期待が、08年のミニバブル崩壊後、“冬眠”していた不動産業界を目覚めさせた。
孫さんも銀座を買っています
孫正義社長が昨年購入したティファニー銀座本店ビルについての記事を確認してみましょう。
「まさか、あの物件を手に入れるとは」――。昨年秋、ある大型の不動産取引が市場関係者の話題をさらった。ソフトバンクの孫正義社長が、銀座の中でも中央通りに面した一等地に位置するティファニー銀座本店ビル(銀座2丁目)を取得したことだ。
かねて米携帯会社スプリントの大型買収など派手な動きには事欠かない孫氏自身の知名度に加え、さらに度肝を抜いたのが、テナントの家賃収入から管理コストを引いた利益を物件価格(取得価格)で割って出す「NOI利回り」の低さだ。
今回の取得金額は300億円強で、同利回りは2.5%程度とみられる。「利回りが3.5%以上はないと、不動産賃貸業としては立ち行かない」(みずほ証券の石沢卓志チーフ不動産アナリスト)と言われ、利回りの低さは、それだけ家賃収入などに対する取得額が割高であることを示す。裏を返すと、この条件での取得は不動産価値が今後さらに高まり、家賃収入や物件売却価格の上昇を見込んだ強気の取引とも言える。
実際のところ、購入価格は320億円と昨年報道されています。
こんな低い利回りで購入してどうして採算が合うのだろうと疑問に思いますよね。
ティファニー銀座ビルをソフトバンクの孫社長が320億円で購入=関係筋
米高級宝飾店大手ティファニー(TIF.N: 株価, 企業情報, レポート)の銀座本店ビル(東京都中央区)をソフトバンク(9984.T: 株価, ニュース, レポート)の孫正義社長が320億円で購入したことが分かった。複数の関係筋がロイターに述べた。
関係筋によると、買収金額から得られる期待利回り(キャップレート)は2.6%とみられ、アベノミクス効果への期待から東京都心の不動産価格が回復し始めて以来、最も割高な投資になるという。
日本の代表的な不動産投資信託(REIT)の期待利回りは、年初来4%ないしそれ以上の水準で推移していたが、2006年をピークとした不動産投資ブームの際は、投資家の過大な投資熱から期待利回りが2%台に低下。今回の孫氏の買収はその水準に近づいていることを示している。
割高なこの投資の本当の目的はどこにあるのか。想定される投資理由について、相続税の専門家が分かりやすい解説をしています。
孫正義の銀座ティファニービルの購入は、割の合わない投資なのか?
つまり、320億円を現金のままもっておくと、320億円の相続税評価額となるのですが、それを銀座ティファニービルに置き換えると、84億にまで下がるのです。
さて、孫氏の総資産は1兆円を超えるため、どう考えても相続税は最高税率の55%の洗礼を受けることは確実です。したがって、今回の購入により孫氏が負担すべき相続税は
(320億円-84億円)×55%≒130億円
減額されることになります。これが、孫氏の隠れた目論見であったと思うのです。
つまり、孫氏は、320億-130億円=190億円で取得したに等しいことになるわけです。
話を戻して、当初の2.6%の利回りでキャッシュフローを計算すると、320億円×2.6%=8億3200万円となります。これを、相続税節税額を引き算した後の純投資額で割ると、投資利回りは
8億3200万円÷190億円=4.37%
となります。
あの孫社長が、さしたる理由もなく高額な不動産投資を行うはずがないですよね。相続税対策はもちろんのこと、将来グループ会社に賃貸して更なる発展の道具としてこの不動産を活用する可能性も否定できません。
このように、富裕層が買主になると一般的な金銭感覚や利回りとは異なる価値観で売買される場合があります。オフィス等の賃料が上昇傾向にあると想定されれる場合は、その将来的な含み益を察して不動産を購入する場合も多いです。
東京のオフィス賃料は上昇傾向にあり
事実、東京のオフィス賃料は上昇傾向にあります。JLLグループは、世界主要都市のオフィス賃料の動向を示す独自の分析ツール
「プロパティ クロック(不動産時計)」
を公表しています。
東京のAグレードオフィス賃料 9四半期連続で「上昇加速」フェーズを維持
「東京Aグレードオフィス賃料は上昇加速しています。駆け込み需要に沸いた第一四半期を経て、懸念された消費税増税後の個人消費の落ち込みは想定内のレベルに留まり、本年夏以降は順調に回復軌道を辿るものと思われます。一方、企業設備投資は既に増加傾向にあり、更なる労働市場の良化も手伝って、ここに来て広範なオフィス需要が明らかに顕在化してきており、今期の賃料は力強い上昇となっています。今後もオフィス賃貸市場はポジティブな動きのもとに推移する公算が高く、最新のプロパティ クロック(不動産時計)にもこれが表れています」
東京Aグレードオフィスを借りることができるのは、一部の大手企業中心だと思います。アベノミクス効果もあって設備投資が旺盛になり、人材を増やし続けるとすれば、オフィススペースが足りないということになります。
では、Bグレードオフィスの人気はどうなのでしょうか?
東京都心5区についての記載された少々前の記事ですが、ご参考までに記載します。
東京都の都心5区の「Bグレードオフィス」賃料、4期連続上昇–市場活発化へ
ジョーンズ ラング ラサールは13日、東京都心5区(千代田、港、中央、新宿、渋谷)のBグレードオフィス市場に関する調査レポートを発表した。それによると、2013年第4四半期のBグレードオフィス賃料は月額坪当たり1万9,517円(共益費込)となり、前期比0.8%上昇、前年同期比3.6%上昇した。上昇は4四半期連続。
2013年第4四半期のBグレードオフィスの空室率は4.0%と、前期比0.2%低下、前年同期比1.9%低下した。
2010~2013年の売買取引数を見ると、Bグレードは74%で、Aグレードの26%と比べてほぼ3倍。 Bグレードは物件の絶対数が多いことに加え、Aグレードと同レベルの耐震性能を持つ質が高いビルも多数あることから、優良な投資対象として注目されている。主な投資家はJ-REITで、近年はアジア(シンガポール、香港)を筆頭に海外投資家が増加。ファンド規模は小さいが、自国市場より高利回りが期待できる日本の高品質なBグレードビルに関心が集まっているという。
今後も売買市場は活発化する見込みで、2014年年間ではAグレード、Bグレードともに5~10%上昇すると予想している。
J-REITと海外投資家が、東京都心のBグレードオフィス投資を虎視眈々と狙っていることが分かります。
今のところ、地震リスクはあるものの世界の中でも治安が良く、投資リスクが少ない日本、特に東京の不動産は、海外投資家からみて魅力的なのが現状です。
大阪のAグレードオフィス賃料や、東京の商業施設等の動向も確認しておきましょう。
東京のオフィス賃料は上昇傾向、 空室率は3%台で推移
■東京のAグレードオフィス市場
◎賃料
9四半期連続の上昇。月額坪当たり32,779円(共益費込)となり、前期比1.6%上昇、前年比4.1%上昇。新宿・渋谷と赤坂・六本木に牽引された。堅調な経済と低い空室率を背景に市場が貸主優位に傾く中、賃料は引き続き上昇し、上昇率は2四半期連続で加速した。■大阪のAグレードオフィス市場
◎賃料
12四半期連続の下落、ただし下落基調は緩やか。月額坪当たり15,492円(共益費込)。前期比0.4%、前年比0.9%とともに下落。梅田サブマーケット等一部で賃料の反転がみられているものの、総じてみれば緩やかな下落基調が継続した。■東京のリテール(商業施設)市場
◎賃料
7四半期連続上昇。月額坪当たり68,336円(共益費込)。前期比2.4%、前年比3.7%とともに上昇。旺盛な需要を反映して、7四半期連続の上昇。■東京のロジスティクス(物流)市場
◎賃料
12四半期連続上昇。月額坪当たり5,963円(共益費込)。前期比0.7%、前年比1.8%上昇し、12四半期連続の上昇となり、上昇率は緩やかに加速。■東京のホテル市場
◎需要
景況回復に伴い堅調な伸び。訪日外客数は2014年初来5月までの累計で前年同月比28.4%増の5.2百万人となった。これは中国と台湾からの訪日客が前年比でそれぞれ90.8%と41.6%の大幅な増加となったことに起因する。タイとマレーシアからの訪日客もまた、2013年7月以降の観光ビザの規制緩和により、前年比でそれぞれ62.3%と60.7%の大幅な増加となった。日本人の宿泊需要は、2011年3月の震災以来のビジネス客及びレジャー客において引き続き順調な回復を見せている。円安と格安航空会社の躍進も国内需要を後押ししている。
急増している外国人投資家による東京の不動産投資
外国人投資家による東京の不動産投資は、世界的にみても人気です。
ロンドンの2014年上半期投資額は166億ドルとなり、再び都市別投資額で1位となった。2位はニューヨークで164億ドル、2013年下半期1位だった東京は155億ドルで3位となった。
海外投資家による東京の不動産投資額が前年よりも約7割増加し、投資額は46億3300万ドルに達したことが、クッシュマン&ウェイクフィールドの調査結果で明らかになった。
13年7月~14年6月までの期間の国境を越えたクロスボーダー投資額は、総額で46億3300万ドルに到達し、対前期比で66.2%増加となった。都市別のランキングでは、世界8位だった。1位はロンドン、2位はNYだった。また、国内の取引も加えれば、354億6700万ドル(30.4%増加)で、こちらはニューヨーク、ロンドンに次いで世界3位となった。
人気が集中する東京の不動産が高騰していることから、東京以外の不動産の取引もますます活発になっています。今年8月国土交通省が公表した、不動産への長期投資を主体に資金を運用している海外の機関投資家等を対象としたアンケート調査の結果を見てみることにしましょう。
(以下P15ページより引用)不動産投資の適格エリアには、「東京圏」の選択割合(回答者のうち当該項目を選択した回答者の割合)が100%と、回答者の全てが東京圏を投資適格エリアとしている。
「大阪圏」は51.0%、「名古屋圏」は27.5%、「その他の大都市(札幌・仙台・広島・福岡)」は27.5%と、都市の規模に相応する形で選択割合が逓減している。但し、札幌市、仙台市、広島市、福岡市といった地域ブロックの中心都市までを投資適格とする回答が1/4超見られることは、投資意欲の改善と見ることもできる。
アジア系投資家の投資意欲は、私たちの事務所がある千葉県内にも波及しています。
クリサス、千葉市の商業施設取得
クリサス・リテール・トラスト(シンガポール上場の不動産投資信託=REIT) 千葉市稲毛区の大型商業施設「ワンズモール」を110億円で取得したと発表した。日本での事業基盤を拡大する計画を進めている。
クリサスは日本では景気回復の兆しが見られるとして、テナントや賃料設定などを見直すことによって郊外のショッピングモールの収益力を回復したいとしている。
アジアの投資家による対日不動産投資に商機アリ
この市況に商機ありと、大手不動産企業はアジアの投資家による対日不動産投資ビジネスを強化しようとしています。
香港の現地企業との協業開始について ~香港投資家からの対日不動産投資を促進~
現在、香港をはじめ多くのアジア地域では不動産価格が高騰しています。一方、日本の不動産は円安による割安感などからアジア富裕層による投資が加速しており、当社での取引も急増しています。
このたび当社と協業を開始するCIPC社は、投資家向けに海外不動産に関するマーケティングや投資、その他の助言サービスを提供する香港のコンサルティング会社です。同社は、香港で最大のIFA(Independent Financial Advisor:独立系金融アドバイザー)事業会社として香港のほかマカオや中国本土でも事業を展開するコンボイ・フィナンシャル・ホールディングス・リミテッド(香港証券取引所上場)の100%子会社であり、顧客には多くの香港投資家を抱えています。
本事業では、CIPC社が香港において日本不動産への投資に興味のある投資家を発掘し、当社が投資物件の開発および日本における不動産取得に関する各種アドバイスや媒介業務等を行います。これにより当社は、幅広い投資家層の集まる香港市場からの対日不動産投資を促進し、インバウンド仲介事業を拡大してまいります。
~香港をはじめとする海外投資家に対するサポートを強化~
野村不動産ホールディングス株式会社(本社:東京都新宿区%2F取締役社長:中井加明三)の100%子会社である野村不動産アーバンネット株式会社(本社:東京都新宿区%2F取締役社長:宮島青史)は、このたび香港に駐在員事務所を開設することとなりましたので、お知らせします。野村不動産アーバンネットは、2013年4月よりアセット営業本部内に「海外投資家チーム」を設置し、香港・台湾・シンガポールなどのアジア各国をはじめとした海外の投資家による日本不動産へのインバウンド投資をサポートしております。約1年半にわたる活動により、数千万円から数十億円の日本国内の収益用不動産、居住用不動産に対して、海外投資家の投資実行をサポートしてまいりました。
知り合いの不動産エージェントが、アジアの拠点の為に近々駐在します。私ですら、アジアの某国企業と合弁会社を作り対日不動産投資をご支援するビジネスプランを立案中です。それだけアジアの投資家向けに日本の不動産投資をご支援するビジネスが魅力的になってきています。
東京都心の一部高層タワー区分マンションへの投資熱とは別に、国内外の富裕層や不動産投資ファンドにとっては、首都圏中心にオフィスビル等の不動産は当面魅力的な投資対象となりそうです。