ウォーレン・バフェットの不動産投資から学ぶこと
2014.11.11|コラム
世界有数の資産家ウォーレン・バフェット氏とのランチオークションは、今年は2億円強で落札されました。そんな著名なバフェット氏も数は少ないですが不動産投資をしています。バフェット氏の企業への投資は超一級品ですが、不動産に関してはどうでしょうか。
まずはバフェット氏について解説しているウェブサイトからの引用です。
ウォーレン・バフェット
ウォーレン・エドワード・バフェット(英語:Warren Edward Buffett, 1930年8月30日 – )はアメリカ合衆国の著名な投資家、経営者。世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり、同社の会長兼CEOを務める。◎投資基準
バフェットが投資する基準として事業の内容を理解でき、長期的に業績が良いことが予想され、経営者に能力があり、魅力的な価格であるという4つを挙げている。◎買収
バフェットは分散投資を行わず、基準を満たす優れた企業を買収あるいは株式を大量に取得するという集中的な投資を行う。◎語録
・ 1ドルのものを40セントで買う哲学を学んだ。
・リスクとは、自分が何をやっているかよくわからないときに起こるものです。
・他人が慎重さを欠いているときほど、自分たちは慎重に事を運ばなければならないということです。
バフェット氏の投資実績はもちろんですが、投資哲学についても注目されています。
世界一の投資家ウォーレン・バフェットへの評価は、半世紀にわたる年平均リターン+19.7%という驚異的な結果だけでなく、その“投資哲学”にある。コモンズ投信の渋澤健会長に投資家の視点からその「手法」と「哲学」をひもといてもらう。
片田舎のフツウのおじさん―。ウォーレン・バフェットの偉大な功績を知らずに顔写真だけを見たら、そのような印象しか残らないだろう。確かに今年84歳のバ フェットは、生まれ故郷であるアメリカ中西部のネブラスカ州オマハ市郊外の、1958年に31,500ドルで購入した住宅に半世紀以上たった今も住み続けている。
バフェットは、およそ30年間、『フォーブス』誌の長者番付の上位を占め、個人資産の規模は、およそ582億ドル(5兆8,200 億円)。でありながら、2006年には生涯370億ドル(3兆7,000億円)の寄付を発表し、最終的には遺産の99%を慈善財団へ寄付する誓約を公にしている。
(中略)米国庶民や世界中の人々を「今日よりもいい明日へ」―という思いへ素朴な長期投資を通じて導いたことにあるのだ。バフェットの格言に次のような言葉がある。
「今日、誰かが木陰でくつろげるのは、昔に誰かが木を植えたからだ」
巨万の富を得る事業を経営しながら、給料は10万ドルと言われる比較的質素な生活を送っているバフェット氏が不動産投資を行っていることについて、株主への報告書で公開されています。
Buffett’s annual letter: What you can learn from my real estate investments
※原文(16頁「Some Thoughts About Investing」以下より)
上記記事から読み解いていこうと思います(意訳付)。
1986年米連邦預金保険公社(FDIC)から28万ドルで購入した400エーカーの農地への不動産投資事例
(所在地:地元ネブラスカ州オマハから北へ50マイル)
I knew nothing about operating a farm. But I have a son who loves farming, and I learned from him both how many bushels of corn and soybeans the farm would produce and what the operating expenses would be. From these estimates, I calculated the normalized return from the farm to then be about 10%.[…]Now, 28 years later, the farm has tripled its earnings and is worth five times or more what I paid
私は農業の運営について何も知りませんでした。しかし、農業が大好きな息子がいましたので、その農地からどのくらいのトウモロコシと大豆が生産され、その運営費用がどのくらいであるかを息子から学びました。それらの見積もりから、農地の利回りは約10%であると想定しました。(中略)28年たった今、農地の収益は3倍、農地の価格は支払った金額の5倍以上になりました。
一回目の投資は、農地所有者に対して金を貸していた銀行が破綻した関係で、米連邦預金保険公社(FDIC)から割安価格でその農地を購入したようですね。農業を愛する息子さんに任せれば投資が成功すると考えた不動産投資の第一歩が、成功した原因ですね。
1993年米国整理信託公社(RTC )から購入した商業施設への不動産投資事例
(所在地:ニューヨーク大学に隣接)
Here, too, the analysis was simple. As had been the case with the farm, the unleveraged current yield from the property was about 10%. But the property had been undermanaged by the RTC, and its income would increase when several vacant stores were leased.
この例もまた分析はシンプルでした。農地と同様、利回りは約10%でした。しかし、RTCによる不動産管理が良くなかったことから、いくつかの貸店舗を埋める(賃貸契約する)ことで利回りを上げることができると想定しました。
RTCは日本で言えば整理回収機構に相当します。まともな管理状況になかったために、賃借人(テナント)が増えずに空室が目立った不動産だったのでしょうね。
Even more important, the largest tenant — who occupied around 20% of the project’s space — was paying rent of about $5 per foot, whereas other tenants averaged $70. The expiration of this bargain lease in nine years was certain to provide a major boost to earnings. The property’s location was also superb: NYU wasn’t going anywhere.
さらに重要なことは、施設の約20%を占める大口のテナントの賃料が、1フィートあたり5ドル(近隣テナントの平均賃料が70ドルであったためなんと14分の1!)と格安であったことです。このような9年間にわたるバーゲン価格での賃貸借契約が切れた後、適正価格に改善することで大幅な収益改善になると想定しました。この不動産の所在地はまた素晴らしかったです。ニューヨーク大学はどこにも行きませんでした!
賃貸スペースの約20%(5分の1)を占めるテナントに、賃料相場の14分の1で貸し出していた含み益たっぷりの不動産を見つけたことに商機有りですね。
この不動産は、CEOをしていた会社が入居する不動産の大家さん(シルバースタイン氏)から紹介を受けたとのことです。バフェット氏は、有能な不動産投資家で不動産管理の実績を持つ専門家(フレッド氏)と共同でこの不動産への投資事業を行いました。
Fred was an experienced, high-grade real estate investor who, with his family, would manage the property. And manage it they did. As old leases expired, earnings tripled. Annual distributions now exceed 35% of our initial equity investment. Moreover, our original mortgage was refinanced in 1996 and again in 1999, moves that allowed several special distributions totaling more than 150% of what we had invested.
フレッド氏はハイグレードな不動産投資家であり、彼の家族は不動産を管理していました。そこでフレッド氏と共同で不動産投資事業を行うことにしました。当初の賃貸借契約が切れることにより、収益は3倍になりました。現在、毎年の配当は初期投資額の35%を超えています。さらに、当初の融資のリファイナンス (借り換え)を1996年と1999年に行ったところ、投資額の150%以上が何度かの特別配当として返ってきています。
有能な不動産エージェントの力を活用して不動産に投資し、見事な収益を得ています。
バフェット氏の不動産投資に対する考え
You don’t need to be an expert in order to achieve satisfactory investment returns. But if you aren’t, you must recognize your limitations and follow a course certain to work reasonably well. Keep things simple and don’t swing for the fences. When promised quick profits, respond with a quick “no.”
あなたが満足な投資収益を成し遂げるためには、(その分野の)専門家である必要はありません。しかし、もし専門家でないならばあなたの限界を認めた上で、合理的に良い投資が実行されるための確かな方針に従わなければなりません。投資に関するさまざま事をシンプルにして、あちらこちらに揺れないようにしてください。もし、短期的な投資利益を約束されそうな(美味しそうな)話がある場合には、即「ノー」と回答してください。
Focus on the future productivity of the asset you are considering. If you don’t feel comfortable making a rough estimate of the asset’s future earnings, just forget it and move on. No one has the ability to evaluate every investment possibility. But omniscience isn’t necessary; you only need to understand the actions you undertake.
あなたが不動産投資の対象とする資産の将来の生産性に注目してください。もしあなたが、投資対象とする資産の将来の収益の概算を見積もった結果が良くないと思った場合、その不動産のことはさっさと忘れて、次の投資対象の検討に進んでください。誰も、全ての不動産の投資可能性を評価する能力を持ち合わせてはいません。しかし(不動産投資に関して)全知である必要はありません。あなたは、あなたが行う投資行動(アクション)を理解する必要があるだけです。
不動産投資に精通していない人の成功の秘訣は、まず自分が専門家ではないことを認めることが大切であり、不動産投資が成功する道をガイドしてくれるような専門家と手を組むことが成功の秘訣と言っています。慣れない暗闇の道の中を、正しい道へと手を引いて導いてくれる信頼の置ける人(専門家)との出会いが重要ですね。
Forming macro opinions or listening to the macro or market predictions of others is a waste of time. Indeed, it is dangerous because it may blur your vision of the facts that are truly important.
マクロな見解を形成することや他のマクロな見解や市場予測を聞くことは時間の浪費です。それどころか、本当に重要であるあなたの(不動産投資の)ビジョン(展望)をぼやけさせるかもしれないので、そういったことは危険です。
経済学者等、この記事をお読みになるとお怒りになる方が結構いらっしゃるかもしれません(笑)。ですが、投資の本質を付いたお話だと思いますよ。
まとめますと、バフェット氏の不動産投資は株式投資と同様シンプルな手法をとっていることがわかります。
- 投資対象の不動産の資産価値そのものに注目し、含み益を分析する
- 含み益のある不動産を、出来るだけ安く購入する
- 含み益のある投資対象に集中して中長期の投資をする
- 不動産投資の専門家でなければ、まず自分が専門家でない弱さを認める
- 不動産投資&管理の実績が豊富な専門家とパートナーシップを組む
- 短期的な転売益よりも、中長期的な収益性向上を重視する
- マクロな意見や市場予測に耳を傾けることは危険である
株式投資と変わらない、ぶれない不動産投資ポリシーがうかがわれますね。学ぶことは多々あるのではないでしょうか。
世界有数の投資家バフェット氏を育てたノウハウ
世界有数の投資家バフェット氏の育ての親とも言われるベンジャミン・グレアム氏に関する記事から、不動産投資に当てはまるノウハウを学びたいと思います。
グレアムは投資が最も能率的になされるときに投資が最も知的になると教える。バフェットは、この陳述をこれまでに書かれた投資についての言葉の中で最も重要な言葉であるとみなしている。
(加筆:この言葉の原文は、“Investment is most intelligent when it is most businesslike.” です。)(中略)グレアムの好きな寓話は『ミスターマーケット』という毎日株主の家のドアの前に現れては、毎日違う価格で株の売買を持ちかけてくる親切な人物の話である。ミスターマーケットによって提示される価格は、しばしば妥当なように思えるが、それはしばしば馬鹿らしい価格のときもある。投資家は、彼の提示した価格に同意し取引してもよいし、彼を完全に無視してもよい。いずれにしろミスターマーケットは、翌日も他の株式の価格を引き合いに投資を持ちかけてくるのだ。問題は、ミスターマーケットが気まぐれで提示してくる価格に振り回されてはいけないということである。投資家は、市場に参加することではなく市場の愚かさから利益を得るべきである。投資家は、ミスターマーケットがしばしば行う不快な言動に対して、過度に気をとらわれるよりも、むしろ現実世界の会社のパフォーマンスに注目し、割安な株式を取得することに集中する方がよい。彼は、会社の財務状態の分析なしに、価格が高騰しているという理由だけで株式の取得を勧める人間に批判的であった。
◎「会社」→「不動産」
◎「株主」→「不動産投資家」
◎「株」「株式」→「不動産」
このように置き換えると、世界有数の投資家となったウォーレン・バフェット氏を育てた方のノウハウを不動産投資にも当てはめることができるでしょう。
バフェット氏の育ての親の大いなる悩みは「成長性」と「リスク」
ところが、このグレアム氏ですら投資判断をする上で大いなる悩みがありました。
【ベンジャミン・グレアムから学ぶ】グレアムが悩んで投資判断から外した“成長性”の重要度について考えてみる
「株本来の価値」というのは、〈本来の価値〉=〈目に見える価値〉+〈目に見えない価値〉という公式に当てはめることができる。
目に見える価値とは、資産や配当、現時点での収益性など、財務諸表を見れば把握できる価値である。一方、目に見えない価値とは、経営者の質とか、今後のビジネスの可能性とか、確たるものとして数字に表せない“将来性”という価値である。
このうち、目に見えない価値(=成長性)の占める部分の大きい株が「成長株」と呼ばれるものだが、目に見えない価値が多くを占める分、その評価は揺らぎやすく、株価は乱高下しやすくなる。そして、その結果、投資家は相場に翻弄されやすくなるというわけだ。
数多くの偉大な弟子を輩出し、自らも大きな資産を残したグレアム。何よりもまして、株式投資の理論に大きな足跡を残したグレアムであるが、“成長性”という要素に踏み込めなかったところが、やはり限界でもあった。
一番弟子のウォーレン・バフェットは、自分の成功の多くをグレアム理論によることを認めながらも、「グレアムのやり方がそのまま通用したのは、せいぜい1973~74年くらいまでだった」とも告白している。
つまり、バフェットは、「株本来の価値を考えるべし」という基本は死守しながらも、評価の力点を“目に見える価値”から“目に見えない価値”(=成長性)へと移行させたのだ。そして、20世紀最大と言われるほどの大成功を収めたのである。
バフェット氏は、グレアム氏から学んだことに加えて、1973~74年以降のスピーディな社会の変化に対応するために、「目に見える価値」から「目に見えない価値」に投資評価の力点を移行させることにしました。
バフェット氏は、グレアム氏すら苦悩した「目に見えない価値=成長性」をどのように捉えて投資を大成功させたのでしょうか?
バフェット氏の第2の師フィリップ・フィッシャー氏の投資ノウハウから学ぶ
バフェット氏は、「バフェット氏の第2の師」とも呼ばれるフィリップ・フィッシャー氏より、「目に見えない価値=成長性」を捉えた投資を成功させるノウハウを取得しています。
フィッシャーが注目したのは、業界の平均を上回る割合で成長し続ける「会社の成長性」です。フィッシャーは会社の財務内容を調べるだけでなく、優れた会社は経営者も優れていると考え、インタビューを行なって経営者の能力や性格を詳しく調べます。さらに、同じ業界の競争相手と比べるために、会社の特性をとことん調べるのです。
このように、フィッシャーの調査にはかなりの手間と時間がかかるため、保有する銘柄を絞ることをモットーにしています。投資をはじめた頃にはよく理解したとはいえない会社にも手を伸ばして失敗しましたが、のちには自分がよく知っている会社に投資することによって、「平均的な銘柄をたくさん持つよりも、少数の優れた銘柄に絞ったほうが成功する」と確信するようになります。
バフェットも、この考え方には大賛成です。『フィッシャーの「超」成長株投資』を読んで感銘を受けたバフェットは、さっそくフィッシャーに会いに行きました。そして、彼の考え方と人柄に、すぐに共感を覚えたといいます。
◎「会社」「銘柄」→「不動産」
◎「経営者」→「不動産」「管理運営会社」
に置き換えると分かりやすいと思います。
フィッシャー氏も分散投資を否定しているわけではありません。一般市場より高い収益性(パフォーマンス)を得たければ、投資銘柄(不動産)を絞り込み、投資対象の会社(不動産)の特性を詳細に調査し分析する時間を作ることを勧めていると思います。結果的に、より優れた会社(不動産)を見つける確率が上がるということを述べていると思います。
毎年のように優れた不動産に投資し続けることは至難の業です。リスク分散の名の下に数多くの不動産を所有しても、各不動産に目が行き届かずに管理がずさんになり、結果的に収益性が悪化しがちです。身の丈に応じて、中長期で不動産投資事業の経営を楽しむくらいのゆとりが必要ではないでしょうか。
ガツガツと攻めて行く時期も必要かもしれませんが、信頼できる不動産投資専門エージェントとの会話を楽しむゆとりある生活をしていると、思いがけず魅力的な不動産を紹介されるかもしれませんね。