高度利用地の地価の下落初のゼロ! 金融緩和と円安背景に活発な不動産投資
2014.12.5|不動産投資ニュース
国土交通省による平成26年第3四半期(H26.7.1~H26.10.1)主要都市の高度利用地(駅前の商業地や駅近マンション等)における地価動向報告をみると、金融緩和を背景とした不動産投資意欲の高まりが原因とみられる上昇傾向が見て取れます。
国土交通省は、高度利用地をピックアップした上で、四半期(3カ月間)の地価の変動率を年4回発表しています。その公表資料を「地価LOOKレポート」と呼んでいます。
主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~
主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)とは、主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等の地区について、四半期毎に地価動向を把握することにより先行的な地価動向を明らかにするものです。
◎調査内容
鑑定評価員(不動産鑑定士)が調査対象地区の不動産市場の動向に関する情報を収集するとともに、不動産鑑定評価に準じた方法によって地価動向を把握し、その結果を国土交通省において集約する。
また、各地区の不動産関連企業、金融機関等の地元不動産関係者にヒアリングを行った結果を掲載する。
◎対象地域
三大都市圏、地方中心都市等において特に地価動向を把握する必要性の高い地区
東京圏65地区、大阪圏39地区、名古屋圏14地区、地方中心都市等32地区 計150地区
住宅系地区・・・高層住宅等により高度利用されている地区( 44地区)
商業系地区・・・店舗、事務所等が高度に集積している地区(106地区)
選定された「高度利用地」の地価が上昇したからといって、多くの不動産の価格を即アップさせるというわけではありません。ただし現在の不動産市況が続く場合、周辺エリアの不動産価格がじわりじわりとアップしますので、今回の調査レポートについても気にかけておくべきですね。
国内景気は決して良いとは思われない中、活発な不動産投資が高度利用地の地価を押し上げています。
地価の下落地点、初のゼロ 国交省10月調査
地価の上昇基調が続いている。国土交通省が28日発表した10月時点の地価動向報告によると、3カ月前から地価が下落した地区は2007年10月の調査開始から初めてゼロだった。逆に上昇は全体の83%にあたる124地区と過去最多となった。国内景気は回復の足取りが鈍いものの、地価上昇への期待や低金利を追い風に企業と投資家による不動産取引は活発だ。
ただし、皆さんが良く見聞きする「地価公示」や「都道府県地価調査」とは異なりますのでご注意ください。
あくまでも、三大都市圏、地方中心都市等の「高度利用地(150地区)」についてのデータとなります。
調査結果の概況
では、調査結果の概況を見てみることとします。
上昇地区の割合が高水準を維持しているのは、金融緩和等を背景とした高い不動産投資意欲や、生活利便性が高い地区におけるマンション需要等により、商業系地区・住宅系地区ともに多くの地区で上昇が続いていることによる。
このように、今回の地価動向は、上昇地区数が前回と同程度(全体の約8割)を占めるなど、上昇基調の継続が見られる。
特に目立って地価が上昇している地区はどこでしょう?
各地区ごとの地価の変動を見てみることにしましょう。
東京都中央区銀座中央地区と新宿区新宿三丁目地区が、四半期変動率「3%以上〜6%未満(オレンジ色の矢印)」となっており最も変動率が高かったようです。
特に銀座中央地区は四期連続四半期変動率「3%以上〜6%未満」の上昇となりました。
この2地区に関する鑑定評価員のコメントも確認してみましょう。
主要都市の高度利用地地価動向報告~平成26年第3四半期~(PDF)
◎銀座中央地区(59頁より)
高額消費が好調を維持していることや、外国人観光客の増加傾向もあり、我が国有数の商業地である当地区は引き続き賑わっている。こうしたなか、主要通りのみならず裏通り沿いにおいても、築年の経過したビルを建替える動きが続いており、取引市場においては、築浅ビルだけでなく建替えを前提とした築古ビルの需要も強まっている。さらに、土地価格水準が高位にある当地区においては、建築費の上昇が開発事業の採算性に及ぼす影響は比較的小さい。そのため、当地区の地価動向は引き続き上昇傾向にある。
我が国有数の商業地である当地区の不動産は、ステータス性が強いことから、我が国の経済が好調に推移するようであれば、当面は需要が強い状況が続くと予想される。また、当地区では、主要通り沿いで複数の大型開発事業が進捗中であり、こうした開発の動きが中長期的な地区全体の集客力にプラスの影響を及ぼしていく可能性が高いほか、外国人観光客の増加傾向も、国際的な知名度を有する当地区にとって追い風である。
◎新宿三丁目地区(69頁より)
当地区では収益不動産の取引が中心であり、店舗としての利用が一般的である。店舗賃料は上昇傾向にあり、昨今の景況感から収益の増加を見込んだ需要者の新規物件への投資意欲は引き続き旺盛であるが、依然として供給過少の状態である。その結果、取引価格は上昇し、取引利回りは下限に近づきつつあるものの、依然低下している。そのため、地価動向は上昇傾向にある。
消費者の消費意欲が今後も好調に推移するようであれば、高級ブランド店の集積や老朽ビルの建替え等による街並みの更新も相俟って、今後も店舗賃料の上昇傾向は続くと予想される。
地価を押し上げている要因その1:J-REIT
高度利用地を中心に活況な不動産投資市場を牽引しているのがJ-REITです。J-REITの時価総額は先月末に10兆円に到達しました。
11月28 日 、J-REITの投資口時価総額が初めて10兆円を超えた。2001年9月に2銘柄・時価総額約 2,600 億円で始まったJ-REIT市場は、リーマン・ショック等の困難な局面を乗り越え、累計で1.9 兆円を超える分配を安定的に行い、48 銘柄・時価総額10兆285億円(11月28日終値)の市場へと成長を遂げた。
以前、
J-REIT REPORT October 2014(PDF)
9月末の J-REITの時価総額は9兆800億円となり、初めて 9兆円台に到達した。今年5月に8兆円を突破してからわずか 4ヶ月で約1兆円増加した。この間、新規上場は1件のみであり、既存REITの増資は比較的活発であったが、投資口価格の上昇が時価総額増加の最大の要因 であった(5月末から9月末にかけて時価総額は10.4%増加したのに対し、東証REIT指数は6.8%上昇した)。
という内容を記載しました。今度はわずか2ヶ月で時価総額が約1兆円増加したことになります。この勢いは止められないというより、止まることを想像する人がどんどん減るように思います。
J-REIT全体の分配金推移は安定性があるとはいえ決して良い流れになっていないのですが、国債10年物最長期利回り、東証1部株式配当利回りよりは良い水準にあります。
高度利用地の地価をアップさせる要因の一つであるJ-REITに、投資マネーがどんどん流れ込む勢いが今のところ止まりそうにないのも分かります。投資マネーがますます流れ込むと、どうにかして運用(不動産投資)しなければならない立場に追い込まれるJ-REITは、一般相場以上の高額な不動産投資をしなければならなくなります。不動産投資の狙い目は高度利用地中心でかつ、運用を要する多額なマネーを動かすことができる大型不動産となります。自作自演のJ-REITに転売するよりも高額で購入してくれるJ-REITまで登場しているとの話まで聞こえてきています。この市況では、今後も相当高額な不動産投資が行われる可能性が大きいため、よほどの経済問題や金融危機に遭遇しない限り高度利用地の地価は下がりにくい傾向にあります。
地価を押し上げている要因その2:円安&アジア投資家
このようなJ-REIT以上に相場と乖離した高額な不動産投資をする傾向にあるアジア投資家も、地価上昇の要因の一つですね。
東京都心で不動産バブルが芽生えている? 「買い」の主役は欧米系からアジア系へ 日本の投資家よりも3割も高い金額で物件を買っていく「ある者」とは!?
昨今、東京都心の大型オフィスビルが、相次いで高値で取引されている。
日本国内のリートやファンドが想定する適正価格を、はるかに上回る価格で何者かが買いあさっているようだ。
すなわち、実体経済が良くなったために高度利用地の地価が上昇したわけではないということが言えるでしょう。
実体経済とは異なる地価上昇にリスク有
厚生労働省が2日発表した「実質賃金指数」を見れば、いかに実体経済が継続して良くないかが分かります。
実質賃金指数(11頁参照)
労働者の実質賃金、1年4カ月連続減 10月の勤労統計
10月の毎月勤労統計調査(速報)によると、パートを含む労働者1人が受けとった現金給与総額(基本給や残業代、ボーナスなどの合計)は、前年の同じ月より0・5%多い平均26万7935円だった。8カ月連続で改善したが、賃金から物価の伸びを差し引いた実質賃金指数は2・8%減り、昨年7月以来、1年4カ月続けて減少した。厚生労働省が2日発表した。4月の消費税率8%への引き上げや円安による輸入物価の上昇もあって、賃金の伸びが物価上昇のペースに追いついていない。実質賃金指数は7月、夏の賞与が増えて減少幅が1%台に縮んだが、8月以降は3%前後のマイナスで推移している。
このデータが示す通り、高度利用地の地価がどんどんアップしていると言われても、経済が上向きであるとの実感が湧かないというのが自然な感覚のように思います。
言い換えれば、何らかの経済問題や金融危機が近い将来発生すれば、あっと言う間に地価が下落するリスクを抱えているということです。現在の日本経済における株高&円安経済及び活況を呈している不動産投資市場は、それだけ脆い土台の上で実体のないマネーゲームが繰り広げられ、さらにその中で一般市民が踊っている(踊らされている?)危険性があることを忘れてはいけませんね。